きつね鍋事件…ヘルパー(現在某喫茶店マスター)とやらかしたいたずらの数々

サロベツで宿をやり始めた頃は20代半ば。独身でもあり、出稼ぎにも行った宿主こと父ちゃんは、不便を不便とも思わず、採算があって無くても、なんとも思わず(?!)自由気ままにやっていた。

母ちゃん:今回も引き続き、Aさんに当時のお話を伺おうと思ってます。Aさん、よろしくお願いします。

Aさん:ヨロシク。

何がそんなにおかしいんだか??

右端、セキレイ館の前オーナーが
ヘルパーだった頃

母ちゃん:あの、Aさんが初めて来た昭和53年は、宿の水は水道水じゃなくて井戸水だったそうですね。

宿主:当時豊徳地区は、水道が無いので打ち込み井戸を掘って、水を溜めて使っていたんです。どこの家もそうだったね。お皿を洗うぐらいならいいんだけど、お客さんが5~6人になると、風呂の水とか、シーツの洗濯とかが大変でねえ。使う水の量が多くなるから井戸水がすぐに干上がるんですよ。高台に宿があったし。

Aさん:俺がはじめてきた次の年に結局3週間泊まったんですけど、そのときにちょうど豊徳に水道が敷かれることになってね、俺、水道工事を手伝いましたよ。

母ちゃん:水道工事のアルバイトをしたんですか?

Aさん:それがね!早く水道工事を終わらせれば、それだけ水道屋に払うお金も少なくて済むからって、一緒に川上さんや、もう一人の宿泊客のBと手伝ったわけですよ。道々から、宿に至るまでの300メートルほど、道の横に、側溝を掘って行くわけですけど、普通の感覚で言うと、俺たち、アルバイト料もらえますよね。

母ちゃん:そりゃ、そうでしょうね。

Aさん:ところがね!俺たち、宿代を払ってただ働きをしているんですよ。アルバイト料もらわずに、反対になぜだかお金を払ってるんですよ!絶対これ、おかしいですよね。Bと「絶対俺たち変だよな!」って言いながら、側溝を掘ってました。

母ちゃん:そう言いながら3週間も連泊して、Aさんは何回も泊まりに来てるんですよねえ。牛乳鍋の創成期の頃、「またこれかよ」と言いながら、毎日連泊して食べていた人の話といい、なにやらお客さんもヘンな人が多いですよね!父ちゃんもヘンなら、お客さんも絶対ヘン!

Aさん:でもねえ、その頃川上さんは、いろんないたずらをして、けっこう楽しかったんですよ。こちらも一緒になって、新しく来るお客さんをだましたりしてね。「エゾコバエスープ」とか、「宿主は誰だ」とか、「当たり付きギョーザ」とか、よくやったなあ。

その頃よく宿主は、ちょっとしたいたずらや、宿泊しているお客さんをだまして自分自身が楽しんでいた。

母ちゃん:エゾコバエスープって、いったい何なんです?

Aさん:牧場や湿原に回りは囲まれてるから、やっぱり宿にはハエが多かったんですよ。それでハエ叩きをしてハエをやっつけるんだけど、お客さんにね、「このハエは、エゾコバエといって、サロベツにしかいないすごく貴重なハエなんです」って、ほらを吹くんです。で、「このハエの目玉で作ったスープが絶品で」とか言うんですよ。始めてきたお客さんは、「何言ってんのこの人」ってな感じで聞いているんだけど、川上さんが台所から小さなぶつぶつが浮いているスープを出してきて、「飲んでみてください」とかそこでまた言うんですよ。お客さんは気持ち悪がって飲まないんだけど、「そこら辺にいるような汚いハエじゃないんですよ」とか言いながらグルになってる俺たちが飲んで、「ああ、本当においしいなあ」とか言って絶賛するんです。

これだから宿主はやめられない??

美人に囲まれてうれしそうな宿主!

宿主:それは単に、コショウの利いたコンソメスープなんだけどね。

Aさん:で、恐る恐る飲んでみたお客さんが、「本当だ、おいいしいわ」ってことになって、それからみんなでハエ叩きでハエを一生懸命捕まえては、それらしく鍋に入れて宿主に渡してねえ。晩御飯でコンソメスープを飲みながら、「エゾコバエスープなんて、初めて飲んだわ」って、感激しているんですよ。

宿主:それが後で騙されたって気がついたときは悔しがってねえ。「こうなったら、私たちも明日来るお客さんを騙してやるわ!」って言って、連泊して次の日に来たお客さんに、「このエゾコバエスープおいしいわ」と言って、ハエを捕らせてんだよ。

母ちゃん:そいつは、連泊してくれる、ハエもいなくなるで、一石二鳥ってやつですね。

最初はちょっとしたいたずら。でもヘルパーにまっちゃんこと松本氏が登場して、スタッフはだんだん真剣にいたずらを仕掛けるようになるのだ。

母ちゃん:ついに父ちゃんといいコンビだったまっちゃんこと松本氏が登場ですね。

宿主:まっちゃんもね、うちを知ってて来たわけじゃないんです。ヘルパーがバイクで下沼に遊びに行ったら、まっちゃんが野鳥観察小屋で野宿していて、話をしているうちにヘルパーが「サロベツに楽しい宿があるよ」って誘って連れてきたんですよ。そしてそのまま、ヘルパーになっちゃってね。

母ちゃん:まっちゃんこそ、それが縁で稚内に住みついて、喫茶お天気屋のマスターになってしまうんだから、人生をかなり誤ってしまった人だと思うんだけど、それにしても父ちゃんとは、いいデコボココンビでしたね。

宿主:まっちゃんは策士でねえ。いろいろいたずらのアイディアを考え出すんですよ。それでもう俺とか他のヘルパーとか、真剣に芝居して、お客さんをはめるようになったんだよね。まっちゃんがいなかったら、絶対やらなかったね、キツネ鍋事件とか。。

母ちゃん:キツネ鍋事件!知る人ぞ知る、キツネ鍋事件のことを教えてくださいよ。

宿主:そうだねえ、まず最初にお客さんが来たら、「今日はキツネ鍋を予定してるんだけど、それでいいかな」って聞くんですよ。するとお客さんは「えっキツネって食べられるんですか」ってびっくりするんだけど・・

Aさん:そうそう、そこでまたグルになったお客さんが、「俺昨日キツネ食べたから、今日はタヌキがいいなあ」とか、「いや、私は今日もキツネがいいわ」とか口を挟むんですよ。

宿主:それで初めて来たお客さんが感激して「是非私はキツネを食べてみたい」と言うことになるんだよね。

お天気屋マスターも若かった!

右端、ヘルパーだった頃のお天気屋マスター

母ちゃん:それがまあ、ネタ振りですね。

宿主:で、お客さんが遊びに行って、夕飯をすごく楽しみに帰ってくるんだよね。北海道ならではの料理ねってことでさ。で、俺らも居間にコンロを出して土鍋を置いて、わざわざ土鍋でお湯を沸かすんです。

母ちゃん:思わせぶり!

宿主:で、土鍋の湯が沸く。お客さんは次に料理の皿が運ばれるのを楽しみにしてるんだけど、俺が持って行ったのはマルちゃんの赤いキツネと緑のタヌキ。

母ちゃん:・・・それは、いわゆるカップうどんとそばですね。

宿主:そう。で、鍋の湯をいれてやって、「3分間待ってね」と言ったんです。

母ちゃん:お客さんは、、、

宿主:呆然としちゃってね、隣でグルのやつらが、「やっぱカップめんはこれが一番おいしいよなあ」なんてまたはじめるんだよね。初めての人たちは、がっかりしちゃって、ひそひそと、「そうよねえ、宿代、ここ安いものねえ」「でも夕食にカップめんだけとは、あまりにもひどいんじゃないかしら」とか言ってるんだよね。

母ちゃん:そりゃ宿の夕食にカップめんなんて聞いたことが無いよ。

宿主:でもう、憮然となって、二度とこんなところ来るもんかって顔をして、カップめんを食べようとするんだけど、全部食べられちゃうと、本当に作ってある晩御飯が食べられなくなるでしょ。だから、すぐに、「キツネ鍋だけじゃ足りない?もっと食べる?」ってきいて、どんどん料理を出していくの。ちゃんとした料理を。それで、騙されたってお客さんは気がつくわけ。

母ちゃん:話で聞く限りでは、なんだそんなこと、と思うかもしれないけれど、その場独特の空気があったんでしょうね。

宿主:もうねえ、お客さんをはめようとして、俺らは真剣でしたよ。カップめん以外には料理は無いと思わせるために、夕食の買い物をこっそり運び入れたり、音を立てないように、こっそり料理を作ったりしてね。やってる俺らもすごいパワーと真剣さが必要なんです。

母ちゃん:昔と言うか、いっとき、あしたの城と言えば、「キツネ鍋に注意」って、よく言われてましたね。

宿主:たまたまそのきつね鍋をやった時に、ガイドブック「とらべるまん」の編集者がお客さんとしていたんですよ。

母ちゃん:「とらべるまん」と言えば、既成の旅行ガイドブックとは全く違う視点で北海道の穴場を紹介した、伝説のガイドブックですね。

宿主:その「とらべるまん」の編集者が、ガイドブックでうちを紹介してくれてね。「キツネ鍋に注意」って。他にもいろいろやったんだけど、そんなことで特に「キツネ鍋」が有名になっちゃんたんだなあ。

噂が噂を呼び増えていくお客さん。しかしある日突然、宿主はいたずらをやめてしまうのだった。

母ちゃん:そういうふうに真剣にお客さんを騙してはめたいたずらは、2年ほどでやめてしまったそうなんですが、やっぱり理由があったんでしょう。

宿主:う~ん、やっぱりねえ、俺らは自分たちが楽しくて、やってたんですよ。お客さんがすっかり騙されているときの、快感、そして、分かったときの爆笑とか、その場の空気とか。でもねえ、それが噂になって、それがうちの宿のウリ、と思われだしたんですよ。

母ちゃん:それは、某ユースの「踊り」みたいな・・

宿主:そうですねえ。あしたの城に来れば、何か、ショーアップした面白いことをしてくれる、と思ってお客さんが来だしたんです。サロベツなんてどうでもよくて、「とにかくなんだか、面白いことをしてくれる宿なんだって」みたいなね。

母ちゃん:じゃあ、それを宿のウリとして、お客さんを増やそうと言う経営方針をとることも出来たんだろうけど、父ちゃんにはそれが出来なかったってことですか。

宿主:自分が楽しいからやれたことでも、それをお客さんから常に要求されると、出来なくなっちゃったんですよ。自分だって、他に忙しいことや、ちょっと気分が落ち込んだときとか、いろいろあるわけで、そんなときに何にもしないと、「せっかく泊まりに来たのに、何にもしてくれないの」とか言われてね。そういう人たちは、サロベツを見に来た人たちじゃないんですよね。なんだか自分の理想とは、離れたところにいきだしたような気がして。

母ちゃん:う~ん。

宿主:割り切って、わざとおちゃらけて、ショーアップしてやっていく方法もあったんだろうけど、自分を殺して無理をすると疲れてしまって、宿を続けていけそうに無いような気がしてね。。。それより、もう一度宿の本質に戻って、サロベツを見たいという旅人を大事にして、「面白い宿のあしたの城」じゃ無くて、「サロベツに行くなら、あしたの城」と思ってもらえる宿にしたいと思ったんですよ。

母ちゃん:なるほどねえ。。

宿主:今のこの場所は、宿から原野が一望できるし、利尻も見えるいい場所でしょ。ウリにするなら、この宿から見える景色のよさをウリにしたいと今は思っていますね。掃除をきれいにして、庭なんかもきれいに整備して・・・。

母ちゃん:父ちゃんは今、芝生をきれいにするのに、凝ってるもんねえ。

宿主:夜中まで消灯なしで飲み騒ぐことをウリにしている宿には、それが好きなお客さんが行くだろうし、でもそういうのが苦手な人は、やっぱり消灯が決まった宿に行くでしょう。いろんな個性の宿があっていいと思うんですよねそして俺は、自分が無理なく一番いいと思うようなスタイルでしかやれないし、そういうのが自分の波長に合うなあ、と思うお客さんが来てくれたら、うれしいなあと思うんです。

宿主の加齢とともに宿もまた変化をしていく。しかし20年以上前からのおなじみのお客さんが、家族連れで遊びに来てくれることや、「お父さんがここに若いころ泊まった事がある」といって中高生が一人旅で来てくれることもある。それは、長い間宿を続けてきた者にとっては、嬉しいことなのだ。

母ちゃん:今日は、久しぶりに遊びに来てくれたのに、こんな対談に引っ張り出してしまって、どうもスミマセンでした。私の知らない頃の、父ちゃんのことたくさん聞けて、楽しかったです。

Aさん:いやいや、俺も、若かったころのことたくさん思い出せて、楽しかったよ。次回の対談のテーマは何なんですか?

母ちゃん:父ちゃんの初めての海外旅行で、インドとネパールに行って・・

Aさん:死にかけて日本に帰ってきたときの話ですね!もうあの時は、日本にいた俺たちもびっくりして心配して、大使館に国際電話をかけて・・・

母ちゃん:へぇ~・・

Aさん:そのときの様子も、是非話したいなあ!次回も、お邪魔させてもらっていいかな?!

母ちゃん:えっ、そうですねえ、はい、じゃあ、また次回もよろしくお願いします。。。

ということで、次回は、なぜか宿主には波乱がつきもの(?)インド・ネパール旅行顛末記。

このページの先頭へ