煙筒をメンテナンス
煙筒をメンテナンス

異変が起きたのは、3月も下旬のことだった。煙突が煙を引かなくなり、それどころか黒煙が部屋の中に逆流してきたのだった。「いったいどうなったのよ、 とうちゃん。これじゃあ薪ストーブが使えないじゃないの」かあちゃんは薪ストーブ係りの宿主を問い詰める。「ああこれは、 タールがたまって煙突が詰まったんだ。秋に煙突を調べたときは、まだ一冬掃除をしなくても大丈夫だと思ったんだがなあ」 「相変わらず先の見通しが甘いわね。それはまあいいとして、早く煙突を掃除してよ。そして早く薪ストーブを使えるようにしてちょうだい」 「そんなことを言っても今すぐには無理だよ。道路が雪解けでぐちゃぐちゃで、高所作業車が登ってこれないもの」「え~っ」

高所作業車で壁塗りをしている様子
高所作業車で壁塗りをしている様子
そうなのだ。我が家の煙突の高さは10メートルもあり、煙突の掃除をするための梯子が使えない。そのためいつもは高所作業車を 借りてくるのだが、今の時期、四輪駆動の車ですら登ってくるのが難しい雪解け道、大型車はとてもじゃないが登ってこれそうにない。 「ど~すんのよ」「ど~するって言っても・・・とりあえず、石油ストーブでも焚くか?」客室用の小さな石油ストーブが居間に置かれた。 しかしそのようなストーブでは、広い居間の室温はあまり上がらない。そういう時に限って真冬並みの寒波がやって来るものだ。 「寒い寒い」と騒ぐ子供たち。「道路が固まるまであと2週間もこのままかい?」と怒るかあちゃん。秋に煙突掃除を怠った宿主の 肩身は狭い。

そこに遊びに来たのは近所の牧場主である。「なに、煙突が詰まったって?それじゃオラの牛舎で使っている送風機で下から吹き飛ばせばどうだい。 あれは結構力があるよ」わらにもすがる思いで宿主は試してみることにした。内煙筒を入れる穴から風を送ってみたが、さすがにこびりついたタールは、 風の力だけでは落ちない。

ホースの先にブラシを付けたもの
ホースの先にブラシを付けたもの
集合煙突にブラシを下から入れる

「高所作業車を使って上からブラシを入れれないんなら、下からブラシを入れる方法を考えればいいんだべ・・・」牧場主は煙突を見ながら言った。 「水道屋がオラんちにぶんなげていった水道管用のホースを使えばどうだべ。ホースの先にブラシをつけてよ」なるほど、水道管から各家に地中を通してつなげているホースなら、それなりに硬いし弾力もある。棒と違って内煙筒の穴から煙突の先まで入るかもしれない。そこで満身の力をこめて持って来たホースを穴から突っ込んでみた。 すると、入った入った、10メートルの煙突のタールがボロボロ取れて見事開通。水道管用のホースで煙突掃除をうまく成功させたのだった。

上までブラシを入れて煤をかき出す
上までブラシを入れて煤をかき出す
「それにしても開拓者の末裔は、たくましいねえ」宿主は思った。高所作業車が使えないのなら、他の物で何とか乗り切ってしまう。それが便利な物のない時代に、自分の力で切り抜けてきた開拓者たちのたくましさだ。それに引き換え自分は、高所作業車がないと煙突掃除は出来ないと思い込んできた・・・。

煙突が煙を引く力を取り戻し、薪ストーブの炎は再び力強く燃え上がった。3月の終わりといっても、まだまだ薪ストーブの活躍は続く。

煙突の長さは屋根より90センチ以上の高さがいい、ということで、我が家の煙突の長さは10メートル以上。 家を建てる時からこの煙突をどうやって掃除すれば良いかというのが問題でありました。煙突に、梯子を作り付けしておくか? でも、錆びたり腐ったりしてくるので危ないし、そんな物に捉まって煙突掃除が果たしてできるのか??で、 大工さんたちと出した結論は、高所作業車を借りてきて掃除する、ということでした。これなら足場もちゃんとしているので、 掃除が安全に出来ます。ところが高所作業車は1日借りていくら。煙突掃除は1時間もあったら出来る。 これじゃもったいないので外壁のペンキを塗り直したりしていました。水道管用ホースで掃除できることが分かって、 費用の面で大助かりです。まさに怪我の功名ってやつですね。

追記この薪ストーブにまつわるお話は、2000年に発行された北海道のガイドブック「なまら蝦夷3号」にエッセイとして載せたものです。旧HPにて2001年当時にUPしたものを、写真を入れ替えて再UPしました。当時は写真を撮っていなかったため、この20年ほどの間に煙突掃除をしている写真を使用しています。